「私のイラストが、私の知らないところでAIの学習に使われている…？」
そんな不安を感じているイラストレーターは少なくないのではないでしょうか。
近年、急激な進化を遂げる生成AI。特に、テキストから画像を生み出す画像生成AIは、デザイン・アート業界に革命を起こしつつあります。しかし、その裏で、イラストレーターたちは自身の作品がAIに無断で学習されることに強い危機感を抱いています。
私自身もイラストレーターとして活動する中で、自分の作品が意図しない形で利用されることへの懸念は常に抱えています。
だからこそ、今回はイラストレーターが生成AIに作品を学習されたくないと切実に願う理由と、大切な作品を守るための具体的な対策を、実体験も踏まえながら詳しく解説していきます。
なぜ恐れる？イラストレーターが生成AIに抱く３つの大きな不安
イラストレーターが生成AIに作品を学習されることに不安を覚える理由は、主に以下の３つに集約されます。
1. 権利と収入への影響：私の努力が無価値になる？
- 苦労して確立した独自の画風やタッチが、AIによって簡単に模倣され、許可なく商業利用される可能性がある。
実際に、過去に人気イラストレーターの画風を模倣したイラストが、AIによって大量生成され、問題になったケースも発生しています。
- 生成AIによって誰でも手軽にハイクオリティなイラストを作成できるようになれば、イラストレーターへの依頼が減り、収入減に繋がる可能性も否定できません。
私自身も、クライアントから「AIでイラストを生成できないか？」という相談を受ける機会が増えてきました。イラストレーターの仕事がAIに奪われる未来も、そう遠くないのかもしれません。
- 長年の研鑽によって築き上げた個性や技術が、AIによって簡単にコピーされ、その価値が著しく損なわれることに繋がる。
イラストレーターにとって、自身の画風や技術は、まさに「命」とも呼べるものです。 それがAIによって簡単に模倣され、価値が下落してしまうことは、私たちにとって大きな恐怖です。
2. 作品の価値とアイデンティティの危機：私の個性が奪われる？
- 作品に込めた想いや背景、世界観などが、AIによって完全に無視され、単なるデータとして冷酷に扱われてしまうことに強い抵抗を感じます。
私たちイラストレーターは、一枚の作品に、膨大な時間と情熱を注ぎ込んでいます。AIには、そうした人間の想いは理解できないでしょう。
- 独自性の高い作品こそがイラストレーターとしてのアイデンティティであり、それがAIによって簡単に侵害されることは、自身の存在意義を根底から揺るがしかねません。
AIが生成する画像は、あくまでも既存のデータの組み合わせに過ぎません。真の創造性やオリジナリティは、人間にしか表現できないと私は信じています。
- 人間だけが表現できる繊細な感情や温かみのあるタッチなどが、AIによって機械的に再現されることに、強い違和感や嫌悪感を抱きます。
アナログで描くからこそ生まれる線の強弱や、筆の勢い、色の重なり具合など、人間味あふれる表現は、AIには真似できないイラストレーターの強みです。
3. データ利用の不透明性：私の作品はどうなるの？
- 作品がどのように学習データとして使用され、どのような画像が生成されるのか、開発者側から明確な説明が提供されないことに、強い不安と不信感を抱きます。
作品を提供する側としては、最低限、どのような形で自分の作品が利用されるのかを知る権利があるはずです。
- 同意を得ないまま、生成された画像が営利目的で無断利用される可能性も払拭できません。
自分の作品が、自分の知らないところで勝手に販売されていた…そんなことが起こったらと思うと、恐怖でしかありません。
- 一度学習データとして使用されると、その後のデータの削除や管理は非常に難しく、意図しない形で拡散してしまうリスクも孕んでいます。
インターネット上に一度流出した情報は、完全に消去することは不可能に近いです。自分の作品が、自分の意思とは無関係に拡散し続けることを想像すると、不安で夜も眠れません。
イラストを守る！具体的な対策を４つの観点から解説
上記のような不安に対して、イラストレーターは無力ではありません。自身の作品を守るための様々な対策を講じることができます。具体的な方法を技術的な対策、法的な対策、公開方法の工夫、コミュニティでの取り組みの４つの観点から実例を交えながら解説していきます。
1. 技術的な対策：AIの学習を妨害する
AIによる画像生成には、大量の画像データが必要です。そのため、AIが学習しにくいような形で作品データを加工することで、学習されるリスクを低減できます。
- ウォーターマークの埋め込み: 画像に著作権情報を示すウォーターマークを目立つように埋め込むことで、AIによる無断使用を抑制する効果が期待できます。
特に、商用利用を目的としたAIは、ウォーターマーク入りの画像を学習データとして避ける傾向があるようです。
- メタデータへの著作権情報埋め込み: 画像ファイルのメタデータに著作権情報を埋め込むことで、たとえ画像が転載されても権利情報が残り続けるため、権利侵害が発生した場合の証拠となり得ます。
メタデータは、Exif情報などとも呼ばれ、撮影日時やカメラ情報などが記録されます。ここに著作権情報を追記することで、権利主張を明確化できます。
- 低解像度版の公開: Webサイトなどに掲載する画像は、意図的に低解像度版に限定することで、AIの学習精度を低下させる効果が期待できます。高解像度データは、クライアントワークなどで必要な場合にのみ提供するようにしましょう。
高解像度の画像の方が、AIはより多くの情報を得ることができ、精度の高い学習に繋がります。
- AI学習妨害ノイズの追加: 人間の目には見えない特殊なノイズを画像に追加することで、AIの学習を妨害する技術も開発されています。この技術を活用すれば、画像のクオリティを保ったまま、AIの学習を阻止できる可能性があります。
AI学習妨害ノイズは、画像処理技術を用いて生成され、人間の目にはほとんど認識できません。
[ おすすめツール紹介 ]
- ウォーターマークソフト:
- Easy Watermark Studio: ドラッグ&ドロップ操作で簡単にウォーターマークを埋め込むことができます。
- Watermark PRO: 大量の画像に一括でウォーターマークを埋め込むことができます。
- メタデータ編集ソフト:
- ExifTool: コマンドラインツールですが、様々な形式の画像ファイルのメタデータを編集することができます。
- Adobe Bridge: Adobe製品に付属している画像管理ソフトで、メタデータ編集機能も備わっています。
2. 法的な対策：権利を明確化し、侵害を防止
著作権に関する知識を深め、適切な対策を講じることで、万が一、権利侵害が発生した場合でも、迅速かつ適切な対応を図ることができます。
- 著作権表示の徹底: 作品を公開する際には、「©️ [作者名] [作成年]」 といった著作権表示を必ず明記しましょう。著作権は、作品を創作した時点で自動的に発生しますが、第三者に対して権利を主張するためにも、著作権表示は必須です。
著作権表示は、作品に権利者が存在することを明確に示す役割があります。
- 利用規約による制限: Webサイトやポートフォリオサイトに利用規約を設け、AI学習を目的とした無断使用を明確に禁止する条項を記載しましょう。
利用規約は、Webサイトにアクセスしてきたユーザーに対して、作品の利用条件を提示するものです。
- クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの活用: 作品の使用許諾範囲を明確化できるクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを適切に設定し、AI学習目的の使用を制限することも有効な手段です。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、「表示」「非営利」「改変禁止」などの条件を設定することで、著作権を保護しつつ、作品を自由に利用してもらうための枠組みです。
[ 参考情報 ]
3. 公開方法の工夫：作品へのアクセスを制限
作品を公開する際には、公開範囲を限定したり、アクセス制限をかけることで、AIに学習されるリスクを低減できます。
- 公開範囲の制限:
- 作品を公開するプラットフォームやSNSを厳選し、信頼できる場に限定しましょう。
- すべての作品を公開するのではなく、特定の作品のみを非公開にするのも有効です。
ポートフォリオサイトなど、作品を公開する主な場とは別に、クローズドなコミュニティや展示会など、限られた場でのみ作品を公開するのも良いでしょう。
- パスワード保護:
- 自身のWebサイトやオンラインストレージにパスワードを設定することで、アクセス権を持つユーザーのみに作品を公開することができます。
- クライアントへの作品提出は、パスワード付きファイル共有サービスなどを活用しましょう。
パスワード保護は、最も基本的なセキュリティ対策の一つですが、非常に有効です。
- 作品の部分公開:
- 作品全体ではなく、一部のみを公開することで、AIに学習されるリスクを軽減できます。
- 作品の一部をトリミングしたり、モザイク処理するといった方法も考えられます。
作品の一部のみを公開することで、AIが作品全体の情報を取得することを防ぐことができます。
[ おすすめサービス紹介 ]
- パスワード付き画像共有サービス:
- Send Anywhere: ファイル転送時にセキュリティキーを設定することで、第三者によるアクセスを防ぐことができます。
- GigaFile便: ファイルアップロード時にパスワードを設定することで、パスワードを知っている人だけがダウンロードできるようになります。
4. コミュニティでの取り組み： 連携して権利意識を高める
一人で抱え込むのではなく、他のイラストレーターと連携することで、より強力に権利を主張していくことができます。
- 情報共有:
- イラストレーター同士で積極的に情報交換を行い、AI学習に関する最新情報や対策方法を共有しましょう。
- オンラインコミュニティや勉強会などに参加するのも有効です。
最新の情報や対策方法を共有することで、互いに助け合い、より効果的に権利を守ることができます。
- 権利保護活動への参加:
- イラストレーターの権利を守るための団体や活動に積極的に参加し、法整備や啓蒙活動に協力しましょう。
- 署名活動や、政治家への働きかけなども考えられます。
多くのイラストレーターが声を上げることで、社会全体の関心を高め、より強固な法的保護を実現できる可能性があります。
- 倫理的なプラットフォームの利用:
- クリエイターの権利保護に配慮し、適切な対価を支払うプラットフォームを積極的に利用し、その普及を支援しましょう。
- 倫理的に問題のあるプラットフォームの利用は控え、声を上げて改善を求めていきましょう。
倫理的なプラットフォームを支援することで、クリエイターが安心して創作活動を続けられる環境作りに貢献できます。
[ 関係団体紹介 ]
上記の対策を参考に、自身にとって最適な方法を組み合わせることで、イラストレーターは生成AIの脅威から自身の作品を守り、より安心して創作活動に集中することができます。
テクノロジーの進化と共存していくために
生成AIは、イラスト制作の新たな可能性を広げる一方で、イラストレーターにとって看過できない問題点も孕んでいます。 重要なのは、技術の進歩を阻害することなく、クリエイターとAIが共存できる関係性を築き上げていくことです。
イラストレーターは、自身の権利を主張し、作品を守るための対策を講じながら、AI技術の進化にも目を向け、新たな表現方法を探求していくことが求められています。
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